細菌界(バクテリア(真正細菌)ドメイン)(Bacteria)

バクテリア(真正細菌)ドメイン(Domain Bacteria)
= 細菌界(Kingdom Bacteria)

アーキア(古細菌)を除く原核生物(Prokaryota)が所属します。一般的な意味での「細菌」はこのグループを意味します。

バクテリア(Bacteria)とは、ギリシア語で小さな杖を意味する「βακτήριον(bakterion)」に因んでいます。姉妹群はアルカリア(Arkarya)(= アーキア(古細菌)ドメイン + 真核生物ドメイン)です。

人との関わりでは、病原細菌から発酵細菌、腸内細菌まで、様々なものが存在しています。その多様性・生物量は膨大です。

およそ30程度の門(Phylum)が知られており、当サイトでは34門を採用しています(CPR群は除く)。

バクテリア(真正細菌)ドメイン内の分類については、諸説ありますが、当サイトでは、

• CPR群(Group CPR)
• (Unnamed)
  • ネジバクテリア亜界(Subkingdom Negibacteria) - [恐らく側系統群(probably paraphyletic)]
  • ポジバクテリア亜界(Subkingdom Posibacteria)

に分ける分類を採用しています。(参考：きまぐれ生物学、A Higher Level Classification of All Living Organisms - PLOS ONE、A new view of the tree of life - Nature Microbiology)

ネジバクテリア亜界(Subkingdom Negibacteria)[恐らく側系統群(probably paraphyletic)]

ネギバクテリア亜界とも。グラム陰性菌を中心とするグループです。外膜を持ち、薄いペプチドグリカン層に特徴づけられます(例外有り)。

最近の系統解析によると、側系統群である可能性が高いです(ポジバクテリア亜界を含めないと単系統群にならない)。

プロテオバクテリア門やシアノバクテリア門が特に有名です。当サイトでは暫定的に29門を認めます。

以下の系統は[A new view of the tree of life - Nature Microbiology]を参考に作成しました(あくまで暫定的で、今後も大小の変更が想定されます)。

• シアノバクテリア・メライナバクテリア群(Group Cyanobacteria-Melainabacteria)
• (Unnamed)
  • ポジバクテリア亜界(Subkingdom Posibacteria) - ネジバクテリア亜界には含めない
  • (シアノバクテリア・メライナバクテリア群以外のネジバクテリア亜界)
    • アシドバクテリウム門(Phylum Acidobacteria)
    • デイノコックス・テルムス門(Phylum Deinococcus-Thermus)
    • テルモトガ門(Phylum Thermotogae)
    • (...etc)
    • グラキリクテス下界(Infrakingdom Gracilicutes)

シアノバクテリア・メライナバクテリア群(Group Cyanobacteria-Melainabacteria)

シアノバクテリア、メライナバクテリアの仲間です。暫定的に2門を含みます。当サイトの分類表では下界相当としていますが正式な分類階級は未定です。

CPR群以外の通常のバクテリアの中では、初期に分岐したと推測されています。

シアノバクテリア門(Phylum Cyanobacteria)

シアノバクテリアの仲間です。暫定的に2綱8目を含みます。酸素発生型光合成を行います。藍藻(blue-green algae)とも呼びます。

クロロフィルとフィコビリンタンパク質を持ち、青緑色をしたものが多いです。植物のようですが、植物ではありません。

20数億年前から地球大気の酸素濃度が大幅に増加した「大酸化事変」(Great Oxidation Event)を引き起こしたグループとして知られています。

植物(アーケプラスチダ)の細胞小器官である葉緑体(色素体)はシアノバクテリア由来であると推測されています。

シアノバクテリア門の内部分類は例えば以下のような例があります([Komárek et al. (2014)]を参考、あくまで暫定的です)。

• グロエオバクター綱(Class Gloeobacteria)
  • グロエオバクター目(Order Gloeobacterales)
• シアノバクテリア綱(Class Cyanophyceae)
  • シネココックス亜綱(Subclass Synechococcophycidae)
    • シネココックス目(Order Synechococcales)
  • (Unnamed)
    • ユレモ亜綱(Subclass Oscillatoriophycidae)
      • ユレモ目(Order Oscillatoriales) - ユレモ、スピルリナ(アルスロスピラ)
    • ネンジュモ亜綱(Subclass Nostocophycidae)
      • (Unnamed)
        • スピルリナ目(Order Spirulinales)
        • (Unnamed)
          • クロオコックス目(Order Chroococcales) - クロオコックス、スイゼンジノリ
          • プレウロカプサ目(Order Pleurocapsales)
      • (Unnamed)
        • クロオコッキディオプシス目(Order Chroococcidiopsidales)
        • ネンジュモ目(Order Nostocales) - ネンジュモ、アナベナ、イシクラゲ、アシツキ、ハッサイ

メライナバクテリア門(Phylum Melainabacteria)

メライナバクテリアの仲間です。暫定的に1綱4目を含みます。光合成は行いません。

シアノバクテリア門の姉妹群と推測されています。シアノバクテリア門メライナバクテリア綱と分類する場合もあります。

• メライナバクテリア綱(Class Melainabacteria)

グラキリクテス下界(Infrakingdom Gracilicutes)

グラム陰性菌の中心的なグループです。グラキリクテス(Gracilicutes)とはラテン語で貧弱な皮膚という意味で、グラム陰性菌の薄いペプチドグリカン層に由来しています。

水中を中心に進化したことから、ヒュドロバクテリア(Hydrobacteria)とも呼ばれます。FCB上門、PVC上門、スピロケータ門、プロテオバクテリア門を含み、CPR群以外の通常のバクテリアの内、約3割を占めると推測されています。

単系統群にするためには、当サイトで下界所属不明としているいくつかの門を追加する必要があるかも知れません。

FCB上門(Superphylum FCB)

フィブロバクター門(Fibrobacteres)、クロロビウム門(Chlorobi)、バクテロイデス門(Bacteroidetes)などの仲間です。暫定的に7門13綱を含みます。

上記3門の頭文字からFCBの名が付けられており、分類階級を与える場合は上門とすることが多いです。スフィンゴバクテリア上門(Superphylum Sphingobacteria)とも呼ばれます。

PVC上門とは近縁で、姉妹群またはPVC上門を含む可能性があります。分類の見直しが行われている最中であり、今後も大小の変更が予想されます。

クロロビウム綱には酸素非発生型の光合成を行う緑色硫黄細菌を含みます。

• バクテロイデス門(Phylum Bacteroidetes)
  • バクテロイデス綱(Class Bacteroidia)
  • フラボバクテリウム綱(Class Flavobacteriia)
  • スフィンゴバクテリウム綱(Class Sphingobacteriia)
  • シトファーガ綱(Class Cytophagia)
  • キティノファガ綱(Class Chitinophagia)
• ロドテルムス門(Phylum Rhodothermaeota)
  • ロドテルムス綱(Class Rhodothermia)
• バルネオラ門(Phylum Balneolaeota)
  • バルネオラ綱(Class Balneolia)
• クロロビウム門(Phylum Chlorobi)
  • クロロビウム綱(Class Chlorobea) - 緑色硫黄細菌
  • イグナヴィバクテリウム綱(Class Ignavibacteria)
• フィブロバクター門(Phylum Fibrobacteres)
  • フィブロバクター綱(Class Fibrobacteria)
• ゲマティモナス門(Phylum Gemmatimonadetes)
  • ゲマティモナス綱(Class Gemmatimonadetes)
  • ロンギミクロビウム綱(Class Longimicrobia)
• カルディトリクス門(Phylum Calditrichaeota)
  • カルディトリクス綱(Class Calditrichae)

PVC上門(Superphylum PVC)

プランクトミセス門(Planctomycetes)、ヴェルコミクロビウム門(Verrucomicrobia)、クラミジア門(Chlamydiae)などの仲間です。暫定的に5門9綱を含みます。

上記3門の頭文字からPVCの名が付けられており、分類階級を与える場合は上門とすることが多いです。プランクトバクテリア上門(Superphylum Planctobacteria)とも呼ばれます。

FCB上門とは近縁で、姉妹群またはFCB上門に含まれる可能性があります。クラミジア門(綱)には病原性の種を多く含みます。

• プランクトミセス門(Phylum Planctomycetes)
  • プランクトミセス綱(Class Planctomycetia)
  • フィシスファエラ綱(Class Phycisphaerae)
• クラミジア門(Phylum Chlamydiae)
  • クラミジア綱(Class Chlamydiia)
• ヴェルコミクロビウム門(Phylum Verrucomicrobia)
  • ヴェルコミクロビウム綱(Class Verrucomicrobiae)
  • オピトゥトゥス綱(Class Opitutae)
  • スパルトバクテリア綱(Class Spartobacteria)
• キリティマティエッラ門(Phylum Kiritimatiellaeota)
  • キリティマティエッラ綱(Class Kiritimatiellae)
• レンティスファエラ門(Phylum Lentisphaerae)
  • レンティスファエラ綱(Class Lentisphaeria)
  • オリゴスファエラ綱(Class Oligosphaeria)

スピロケータ門(Phylum Spirochaetes)

Spirochaetae、Spirochaetaeotaとも。スピロケータ(スピロヘータ)の仲間です。暫定的に1綱4目を含みます。

典型的ならせん菌で、スピロケータ(Spirochaete)という言葉もギリシア語でコイル状の髪(σπειροχαίτη)という意味です。

いくつかの種は梅毒、回帰熱、ライム病など病原性を持つことで有名です。またシロアリやゴキブリの腸に共生していて、木材など難消化性の食物の消化に寄与している可能性があります。

• スピロケータ綱(Class Spirochaetia)
  • スピロケータ目(Order Spirochaetales) - 梅毒トレポネーマ、回帰熱ボレリア、ライム病ボレリア
  • ブラキュスピラ目(Order Brachyspirales) - 豚赤痢菌
  • ブレウィネマ目(Order Brevinematales)
  • レプトスピラ目(Order Leptospirales) - ワイル病レプトスピラ、秋疫（あきやみ）レプトスピラ

プロテオバクテリア門(Phylum Proteobacteria)

プロテオバクテリアの仲間です。暫定的に8綱を含みます。非常に大きなグループであり、バクテリア最大の多様性を持っています。

プロテオバクテリアの「プロテオ(Proteo)」とは、変幻自在に姿を変えるギリシア神話の神プロテウスに因んでいます。

大腸菌、サルモネラ、ビブリオ、ヘリコバクターなど有名な細菌を多く含みます。

• アルファプロテオバクテリア綱(Class Alphaproteobacteria)
• ベータプロテオバクテリア綱(Class Betaproteobacteria)
• ガンマプロテオバクテリア綱(Class Gammaproteobacteria)
• デルタプロテオバクテリア綱(Class Deltaproteobacteria)
• イプシロンプロテオバクテリア綱(Class Epsilonproteobacteria)
• ゼータプロテオバクテリア綱(Class Zetaproteobacteria)
• オリゴフレクスス綱(Class Oligoflexia)
• アシドチオバチルス綱(Class Acidithiobacillia)

ポジバクテリア亜界(Subkingdom Posibacteria)

グラム陽性菌を中心とするグループです。外膜を持たず、厚いペプチドグリカン層に特徴づけられます(例外有り)。

最近の系統解析によると、単系統群である可能性が高いです。但し含まれる門は分類体系により異なる場合があります。

フィルミクテス門や放線菌門が有名です。当サイトでは暫定的に5門を認めます。

• フィルミクテス門(Phylum Firmicutes)
• テネリクテス門(Phylum Tenericutes)
• 放線菌門(Phylum Actinobacteria)
• クロロフレクスス門(Phylum Chloroflexi)
• アルマティモナス門(Phylum Armatimonadetes)

CPR群(Group CPR)

CPRはCandidate Phyla Radiationの略で、培養例がない巨大系統群です。バクテリア全体の15%以上を占めると見積もられています。

35以上の門が含まれると推定されます。当サイトの分類表では亜界相当としていますが正式な分類階級は未定です。

細胞サイズとゲノムサイズが非常に小さなことが特徴で、核酸やアミノ酸を合成する能力を持たないなど、特殊な遺伝子構造を持つ種が多いです。

恐らく単系統群で、姉妹群はその他のバクテリア(= ネジバクテリア亜界 + ポジバクテリア亜界)となります。バクテリア(真正細菌)の中で最も初期に分岐したと推測されます。